装置」「操業時間が長い」「五時間未満の睡眠」が、また身体的症状には「航海計器」「作業姿勢」「休暇が少ない」等の項目が影響を及ぼすことが分かる。
「航海計器」の度合いが高いのは、計器の取り扱いによるものよりも、取り付け場所、位置等による姿勢の無理による結果と思われ、これは「漁労作業の姿勢」の悪さと共通するものと考える。同様に「運航中の眠気」に関する結果から「眠気」を誘発する要因として「船内温度」「操業時間が長い」「操業時間が不規則」「照明」が指摘された。
6、 人間エラーによる衝突海難の防止策
人が生産活動で働いているときに生じる人間のエラーは非常に多岐であるため、普遍的な性質を見いだすことは非常に困難である。しかし、船上で働く人の疲労が人の機能を低下させ、人間エラーの原因の一つであることに着目し、疲労と船内環境、漁船においては漁業環境等との関係を明らかにすることによって、個々のエラーに共通する疲労の要因が見いだされた。人的側面からの海難事故発生の防止策として、疲労と眠気についての知見をまとめると以下のようになる。
(1)疲労の身体的、精神的および神経感覚的症状と船酔いとの相関は高い。
(2)疲労の各自覚症状の発現に関して、船体の大自由度運動のうち船体加速度が大きな影響を及ぼす。また船体の動揺周期も影響を及ぼし、周期の短い動揺ほど疲労や船酔いを発現させやすい。
(3)睡眠時間、操業時間、操業の不規則などが運航中の眠気との関連があり、居眠りによる衝突事故を防止するためには、連日の操業計画は操業時間が不規則になったり極端に長くならないようにし、翌日に疲労が残らないように無理は避け、船内温度には十分注意を払い、単調な見張り作業とならないよう気をつける。
(4)底びき網漁船については、漁場移動中に魚群を探索しながら投網地点を決める場合などは、必ず操船者と魚探を監視する者とをそれぞれ配置すること。
(5)特に小型漁船において、船尾トリムである場合や、船首を波に立てて航走している場合などは、死角が生じて事故の原因となることから、いすに座って見張りを行うことなどせず、状況に応じた見張りを心掛ける。
(6)五トン未満の刺し網、かご漁業など単独で操業する漁船では、停船または微速状態で漁労作業を行っている状況でも、他船が避航してくれるなどと思い込まず、周囲の見張りを行うこと。
(7)疲労の身体的症状として頻度の高い「腰痛」を防止するために、特に作業姿勢または航海計器の取り付けについて検討する必要がある。また目が疲れるといった神経感覚的な疲労への対策として、照明、船内温度について改善する必要があり、長時間操業を避け睡眠時間も十分とることが必要である。
人間は過ちを犯す者という前提に立って、人間エラーを考えるならば、人間の弱点を知っておく必要がある。弱点を個条書きにすると@錯誤・錯覚をすること(人間エラーのもと)A疲労することB侵能の恒常性に欠ける(むらがある。正確さの限界)C速度に限界がある(○・二秒程度の反応時間がある)D環境に対して許容限界を持っていることE感情に左右されやすいF固定化した生理的リズムを持っているG居眠り・不注意などの欠点を持つH情報処理能力の限界J計画能力と知覚能力の限界等である。このような弱点を教育・訓練あるいは設備管理面からカバーして弱点が出てこないような配慮が必要となる。
今回、海難事故防止を考えるにあたって、疲労と環境要因との関係、疲労のメカニズムを通して海難との関連を考察した。疲労に個人差あるということは、個人差と関係する@不十分な知識と能力A不十分な経験、訓練B性格、癖、習慣C不適合な身体的条件D乏しい動機、興味E低いモラル等の一つ一つをいかに克服するかという努力も重要である。
今後さらにそれぞれの船や作業場所に人間エラーを誘発させる要因が常に潜在していると考え、そこから重大要因を描きだして対処することによって、海難防止に役立たせたいものと考えている。

 

 

 

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